臨床神経学

短報

巨大胸腺腫をともない抗GAD抗体が陽性であった重症筋無力症の1例

北惠 詩穂里1), 川上 秀史, 松岡 直輝, 江藤 留美, 中村 重信

1)倉敷中央病院神経内科〔〒710-8602 岡山県倉敷市美和1-1-1〕
広島大学第3内科〔〒734-8551 広島市南区霞1-2-3〕

症例は61歳女性.43歳時より18年間にわたり顔面,頸部,四肢の筋力低下をくりかえし,抗アセチルコリン受容体抗体陽性より重症筋無力症(MG)と診断された.MRI上巨大胸腺腫をともない,抗glutamic acid decarboxylase(GAD)抗体陽性で糖尿病を合併していた.胸腺腫の摘出によりMGは寛解したが,糖尿病は緩徐に進行した.膵β細胞に対する自己抗体を持続的に有し,インスリン分泌機能が徐々に減弱するslowly progressive insulin dependent diabetes mellitus(SPIDDM)と考えられる病型であった.本症例においては長期間にわたる胸腺腫の存在が中枢性自己寛容破綻につながり,同じく臓器特異性自己免疫疾患であるSPIDDMの発症に関与している可能性がある.

(臨床神経, 41:818−821, 2001)
key words:重症筋無力症, 胸腺腫, 抗glutamic acid decarboxylase(GAD)抗体, slowly progressive IDDM, 自己免疫疾患

(受付日:2001年3月26日)