臨床神経学

症例報告

異常に多量の流涎を主症状とする左内側側頭葉てんかんの1例

森田 昌代1), 栗田 正1), 井上 聖啓1), 清水 弘之2), 水谷 俊雄3), 新井 信隆4)

1)東京慈恵会医科大学神経内科〔〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8〕
2)東京都立神経病院脳神経外科
3)東京都立神経病院検査科
4)東京都神経科学総合研究所臨床神経病理学研究部門

症例は26歳女性.12年前より発作性の上腹部不快感と異常に多量な流涎をみとめ,流涎は意識減損発作と痙攣をともなっていた.複雑部分発作として抗てんかん薬が開始されたが効果に乏しかった.発作間欠期脳波では左蝶形骨誘導で最大かつ左前側頭・前頭極にも出現する棘波をみとめた.MRIでは左海馬の萎縮がみられた.難治性側頭葉てんかんとして左側頭葉切除術施行後,発作は消失した.病理診断は海馬硬化症であった.てんかん発作における流涎はroland領域,前頭葉眼窩面・帯状回,島・前頭弁蓋,側頭葉内側面なども関与するといわれている.本例における異常に多量の流涎は,海馬の異常発射にともなう前頭葉辺縁系の活性化との関連が示唆された.

(臨床神経, 41:809−812, 2001)
key words:異常に多量の流涎, 側頭葉てんかん, 海馬, 前頭葉辺縁系

(受付日:2001年1月16日)