臨床神経学

原著

紀伊半島多発地域の筋萎縮性側索硬化症とパーキンソン痴呆複合の臨床神経学的および神経病理学的検討

小久保 康昌, 葛原 茂樹

三重大学医学部神経内科〔〒514-8507 三重県津市江戸橋2-174〕

紀伊半島穂原地区に居住し,1996年から1999年の間に筋萎縮性側索硬化症(Kii ALS)またはパーキンソン痴呆複合(Kii PDC)に罹患していた患者22例(Kii ALS3例,Kii PDC 19例)について,臨床神経学的および神経病理学的に検討した.Kii ALSとKii PDCのいずれかを4親等以内に有するものは,Kii ALS例では33.3%,Kii PDC例では78.9%,全体では72.7%であった.発症時年齢は,Kii ALS例では57歳から63歳(平均60.0歳),Kii PDC例では53歳から74歳(平均66.5歳)であった.男女比は,Kii ALS例では全例女性,Kii PDC例では1:1.7と女性が多かった.Kii ALSの臨床像は通常のALSと差はなかった.Kii PDCの中核的臨床像は,痴呆とパーキンソン症状で,さらに運動ニューロン症状を高率にともなった.Kii ALS/PDCの神経病理学的特徴は,神経原線維変化(NFT)と神経細胞脱落が海馬を中心とした大脳皮質と脳幹諸核にみとめられることと,ALS病変が共存することであった.NFTの超微細構造は,paired helical filaments(PHF)であった.Kii ALSでは1969年に実施された調査成績と比較すると,男女比は男性優位から女性優位になり,発症年齢が約10歳高齢化したこと,および初発症状は以前は下肢の脱力が多かったが,今回は球麻痺が多かった.Kii PDCの臨床像に関しては,今回が多数例についてのはじめての報告である.

(臨床神経, 41:769−774, 2001)
key words:筋萎縮性側索硬化症, パーキンソン痴呆複合, 紀伊半島, Guam島, 神経原線維変化

(受付日:2001年3月19日)