臨床神経学

総説

多系統萎縮症の病態と症候の広がり

渡辺 宏久1)2), 陸 雄一2), 中村 友彦2), 原 一洋2), 伊藤 瑞規2), 平山 正昭1)3), 吉田 眞理4), 勝野 雅央2), 祖父江 元1)5)*

Corresponding author: 名古屋大学医学系研究科〔〒466-8550 名古屋市昭和区鶴舞町65〕
1)名古屋大学脳とこころの研究センター
2)名古屋大学大学院医学研究科神経内科学
3)名古屋大学保健学科病態解析学講座
4)愛知医科大学加齢医科学研究所
5)名古屋大学医学系研究科

多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)は進行性の神経変性疾患で,パーキンソニズム,小脳失調,自律神経不全,錐体路徴候を経過中に種々の程度で認める.孤発性が圧倒的に多いが,主として常染色体劣性を示す家系も報告されている.パーキンソニズムが優位な臨床病型はMSA-P(multiple system atrophy, parkinsonianvariant),小脳失調が優位な臨床病型はMSA-C(multiple system atrophy, cerebellar variant)と呼ばれ,欧米ではMSA-Pが多く,日本ではMSA-Cが多い.平均発症年令は55〜60歳,予後は6年から10年で,15年以上生存する症例もある.早期から高度に出現する自律神経不全は重要な予後不良因子の一つである.発症時には,運動症状もしくは自律神経不全のいずれか一方のみを有する症例が多く,いずれの症状も出現するまでの期間の中央値は自験例では2年である.現在広く用いられている診断基準は,運動症状と自律神経不全をともに認めることが必須であるため,運動症状もしくは自律神経不全のみを呈している段階では診断が出来ない.しかし,自律神経不全のみを呈する段階で突然死する症例もあることを念頭に置く必要がある.MSAに伴う自律神経不全の特徴の理解と病態に基づいた責任病巣の特定は,早期診断に有用な情報をもたらすと考えられる.従来は稀とされてきた認知症もMSAにおける重要な問題である.前頭葉機能低下はMSAでしばしば認め,MRIやCTにて進行とともに前頭側頭葉を中心とする大脳萎縮も明らかとなる.最近では,前頭側頭型認知症の病型を示す症例も報告されている.MSAの病態と症候の広がりを踏まえた,早期診断方法開発は,病態抑止治療展開の上でも極めて重要である.
Full Text of this Article in Japanese PDF (542K)

(臨床神経, 56:457−464, 2016)
key words:多系統萎縮症,早期診断,突然死,自律神経不全,認知症

(受付日:2016年4月25日)