臨床神経学

<シンポジウム(4)―5―5>プリオン病の最新情報

プリオン病の治療:現状と研究の最前線

坪井 義夫1)

1)福岡大学医学部神経内科学教室〔〒814-0180 福岡市城南区七隈7-45-1〕

プリオン病は,脳内に異常プリオン蛋白の凝集がみられ,臨床的にはいったん発症すると例外なく進行性,致死性の経過をたどる難病である.プリオン病に対する有効な治療薬はなく,その開発が期待される.これまでマウスをもちいたプリオン蛋白感染実験で,その発症遅延効果が示されたキナクリン,ペントサンポリサルフェート(PPS)の脳室内持続投与など少数の薬剤が実際に臨床応用されたが,明らかな臨床改善効果は証明されなかった.またこれらのプリオン病の臨床治験における問題点も明らかになった.プリオン病の臨床経過が多様であり,それぞれの病型における自然歴が不明であること.一旦発症すると進行が早く,進行抑制効果の評価ができないことなどである.これらの弱点を克服するために,あらゆる型のプリオン病における自然歴を調査し,今後治療候補薬物の医師主導治験を開始するための基礎データを集積することが必要であるとおもわれた.イタリアの家族性致死性不眠症の家系における遺伝的発症素因(at risk)家族を対象に,発症予防研究が始まっている.このようなモデル研究を本邦にも多い疾患であるGerstmann-Straussler-Scheinker(GSS)病において可能かどうかの検討が始まっている.可能性のある候補薬剤の選択とともに,発症前遺伝子診断,陽性者に対する発症予防研究などに向けての基礎を構築する必要があると考える.
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(臨床神経, 53:1255−1257, 2013)
key words:プリオン病,治療,キナクリン,ペントサンポリサルフェート,ドキシサイクリン

(受付日:2013年6月1日)