臨床神経学

短報

“yes-yes”型の頭部振戦をともなった多発性硬化症の1 例

尾股 慧 ,鈴木 直輝, 井泉 瑠美子 ,永田 真理 ,西山 修平 ,中島 一郎 ,糸山 泰人

Corresponding author: 東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経内科学分野〔〒980―8574 宮城県仙台市青葉区星陵町1―1〕
東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経内科学分野

症例は32歳の女性である.2009年5月に右口角の力が入らなくなったが自然軽快した.2010年1月に頭部の前後方向の振戦が出現し,3月には右上肢の痛み・異常感覚を自覚した.4月にはLhermitte徴候をみとめ,MRIにて大脳白質と頸髄に多発する病変をみとめた.頸髄病変では一部造影増強効果もみられた.髄液オリゴクローナルバンドが陽性であり多発性硬化症(MS)と診断した.メチルプレドニゾロンパルス療法により右上肢の痛み・異常感覚は減弱し,クロナゼパムにより頭部振戦は改善をみとめた.いわゆる“yes-yes”型の頭部振戦はMSに比較的特徴的とされる一方,本例の如く振戦が頭部に限局する例は非常にまれである.また,MSにともなう振戦の責任病変として小脳・視床が指摘されてきたが,頭部振戦の責任病変は明らかになっていない.本例ではMRI上頸髄のみに造影病変をみとめたため,頭部振戦の病態に頸髄病変が関与している可能性が示唆された.
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(臨床神経, 51:282−285, 2011)
key words:多発性硬化症,頭部振戦,“yes-yes”型

(受付日:2009年9月1日)