臨床神経学

原著

脳梗塞急性期のスタチン投与が末梢血炎症性サイトカイン動態と急性期の進行増悪に与える影響

櫻井 謙三, 伊佐早 健司, 高石 智, 加藤 文太, 清水 華奈子, 下邨 華菜, 徳山 承明, 長谷川 泰弘

Corresponding author: 聖マリアンナ医科大学神経内科〔〒216―8511 川崎市宮前区菅生2―16―1〕
聖マリアンナ医科大学神経内科

発症48時間以内の脳梗塞患者146例を対象とした.このうち入院前からスタチンを服用中であったもの,あるいは入院時に脂質異常症をみとめたものに対しては,入院直後よりアトルバスタチン10mg/日の投与を開始し(Statin群,45例),これ以外の症例では入院2週間はスタチンの投与をおこなわなかった(Non-Statin群,101例).経時的にInterleukin(IL)-6,IL-10,IL-18,Matrix Metalloproteinase(MMP)-2,MMP-9,および高感度CRPを測定した.入院時の値を基にした第3,第7,第14病日のIL-6変化率は,Non-statin群では各々145%,174%,155%で,Statin群では173%,43%,40%であり,Statin群ではNon-statin群に比し第7,第14病日において有意に低下を示し,かつその交互作用は有意であった(group X time factor,p=0.047).発症14日以内に進行増悪を示したものの割合はNon-Statin群よりStatin群の方が少なかったが有意差はえられなかった(7.9% vs 20.2%,p=0.118).入院後14日以内に神経徴候の症候増悪率,退院時転帰には両群間で有意な差はみられなかった.我が国の常用量のアトルバスタチン(10mg/日)の脳梗塞発症48時間以内の投与開始は,急性期の血中IL-6の値を低下させうる.今後急性期の症候増悪や転帰に対する影響を検討する価値があり,IL-6値はその際検討すべきマーカーの一つとなるものと思われた.
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(臨床神経, 51:6−13, 2011)
key words:サイトカイン,スタチン,インターロイキン,脳梗塞

(受付日:2010年5月11日)