臨床神経学

総説

小脳症候の病態生理

三苫 博

Corresponding author:東京医科大学医学教育学講座〔〒160-0023 新宿区西新宿6-7-1〕
東京医科大学医学教育学講座

小脳症候の基本的な病態には,どのようなものがあるのであろうか?(1)協調性の障害―要素的な運動を統合し,全体としてまとまった一つの動作を完成させることができず,要素的な運動がばらばらにおこなわれてしまう状態,(2)予測性の障害―速い運動に対して,あらかじめ運動軌道を計算するフィードフォワード型の制御をおこなうことができず,不正確になってしまう状態,(3)適応性の障害―反射系を周囲の状況に応じて,その利得を調節することができず,反射自身が外乱の原因になってしまう状態,などは,小脳失調の基本要素であると考えられる.近年,小脳のシナプスに可塑性があることがみいだされ,小脳は試行をくりかえす中で誤差を検出し,系のパラメーターを変化させて,「内部モデル」を形成していることが明らかになった.小脳障害ではこの「内部モデル」が欠落し,予測的あるいは適応的な制御をおこなうことができないものと考えられている.
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(臨床神経, 49:401−406, 2009)
key words:小脳症候, 協調性の障害, 予測性の障害, 適応性の障害, 内部モデル

(受付日:2009年4月30日)