臨床神経学

症例報告

重症熱中症急性期にMRI拡散強調像にて小脳皮質の高信号を捉えた1例

藤岡 祐介1)2)*, 安井 敬三1), 長谷川 康博1), 高橋 昭3), 祖父江 元2)

Corresponding author:名古屋第二赤十字病院神経内科〔〒466-8650 名古屋市昭和区妙見町2-9〕
1)名古屋第二赤十字病院神経内科
2)名古屋大学医学部神経内科
3)公立学校共済組合東海中央病院神経内科

意識障害と痙攣で発症した重症熱中症の47歳,男性症例.意識障害の改善後,高度の無為・無欲,体幹失調等の小脳性運動失調症候がみられた.急性期の頭部MRI拡散強調像(DWI)にて小脳皮質に,ADC値の低下をともなう異常高信号がみられた.発症約2カ月後,体幹失調,構音障害は改善したが,四肢の測定障害はむしろ悪化した.MRI(DWI)上の異常高信号は消失したが,小脳は萎縮傾向を示し,脳血流シンチグラフィでは小脳歯状核部の血流低下が増強した.DWIでの異常高信号は,高体温による小脳Purkinje細胞の細胞性浮腫を捉えた可能性があり,その後の小脳萎縮の出現や後遺症の有無について注意深く検討する必要があることを示している.
本症例では急性期に酒石酸プロチレリンを使用し,無為・無欲に対する有効性を確認した.熱中症後の無為・無欲の改善を期待し試みられるべき治療の一つであると考える.
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(臨床神経, 49:634−640, 2009)
key words:熱中症, MRI拡散強調像, 小脳皮質, 細胞性浮腫, 酒石酸プロチレリン

(受付日:2009年2月18日)