臨床神経学

日本神経学会賞受賞

脊髄小脳変性症の分子病態機序の解明

小野寺 理

Corresponding author:新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター脳疾患リソース解析部門分子神経疾患資源解析学分野〔〒951-8122 新潟市旭町通1-757〕
新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター脳疾患リソース解析部門分子神経疾患資源解析学分野

神経細胞の機能を維持するために,神経細胞の内部環境を維持する品質管理機構の重要性が明らかとなってきている.とくに蛋白質と核酸の品質管理機構と神経変性疾患との関係が注目されている.優性遺伝性脊髄小脳変性症の代表的な疾患であるポリグルタミン病では,蛋白質の品質管理機構の異常が推察されている.本症では,増大したポリグルタミン鎖が原因となるが,増大ポリグルタミン鎖の細胞傷害性を持つ構造体は明らかではなかった.われわれは,近接した蛍光物質間でおこる蛍光共鳴エネルギー移動現象を利用し,増大ポリグルタミン鎖のオリゴマー状態を可視化する方法を開発した.本法により,増大ポリグルタミン鎖が,平行βシート構造,もしくは順方向性のシリンダー構造のオリゴマーを形成することを示した.また,オリゴマーが,もっとも細胞傷害性が高い構造体であることを示した.一方,劣性遺伝性脊髄小脳変性症の病態機序として,核酸品質管理機構の破綻が注目を集めている.神経細胞のDNAは活性酸素や化学物質により常に障害をうけDNA損傷が生じている.損傷部の3'末断端はリン酸基,ホスホグリコール酸基または不飽和アルデヒド基となっており,修復のためには水酸基にエンド・プロセッシングされる必要がある.われわれは劣性遺伝性脊髄小脳失調症の原因遺伝子アプラタキシンの生理機能を検討し,この蛋白質が,in vitroにおいて,3'末断端のリン酸基およびホスホグリコール酸基を除去し水酸基とする活性を持ち,これにより損傷部のエンド・プロセッシングに関与していることを示した.このことから,本症の病態機序としてDNA損傷の蓄積があることを示し,脊髄小脳変性症での核酸品質管理機構の重要性を明らかにした.
Full Text of this Article in Japanese PDF (692K)

(臨床神経, 49:1−8, 2009)
key words:ポリグルタミン病, アプラタキシン, オリゴマー, 一本鎖DNA切断, 品質管理機構

(受付日:2008年10月3日)