臨床神経学

症例報告

後輪状披裂筋の神経原性萎縮と咽頭潰瘍による炎症波及が声帯外転麻痺の原因と考えられた多系統萎縮症の剖検例

永田 倫之, 亀井 博之, 古谷 博和, 藤井 直樹, 野田 和人**, 岩城 徹**

国立病院機構大牟田病院神経内科〔〒837-0911 福岡県大牟田市大字橘1044-1〕
現 吉塚林病院〔〒812-0041 福岡県福岡市博多区吉塚7丁目6-29〕
**九州大学大学院医学研究院脳神経病研究施設病理部門〔〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1〕

症例は74歳男性である.64歳頃から歩行不安定.66歳頃から書字困難.67歳頃から構音障害や発汗減少が出現した.起立性低血圧,構音障害が悪化し,しだいにADLも低下した.71歳時,当院に入院した.経鼻胃管挿入されたが,その後も神経症状は悪化した.誤嚥と睡眠時の大きな鼾もみとめられた.誤嚥性肺炎のため,74歳で死亡した.病理学的所見では,MSAとして典型的で高度な病理変化をみとめた.また下咽頭部に潰瘍があり,後輪状披裂筋に急性炎症所見をみとめた.多系統萎縮症では神経原性筋萎縮に加えて,経鼻胃管を挿入されたばあいには頸椎と輪状軟骨に挟まれる部位で局所炎症が加わるために,高度の後輪状披裂筋障害を呈する結果,声帯外転麻痺をひきおこす可能性が示唆された.

(臨床神経, 47:340−343, 2007)
key words:多系統萎縮症, 声帯麻痺, nasogastric tube syndrome

(受付日:2006年12月16日)