臨床神経学

症例報告

拡散テンソルMRIにて経過を観察しえたメソトレキセート脳症の1例

寺澤 由佳1)*, 中根 俊成1), 大西 敏弘2), 原田 雅史3), 古谷 かおり4), 和泉 唯信1), 梶 龍兒1)

1)徳島大学 神経内科〔〒770-8503 徳島県徳島市蔵本町3丁目18番地の15〕
2)徳島大学 小児科
3)徳島大学 医学部保健学科診療放射線技術学講座
4)徳島大学 放射線科
現 川崎医科大学脳卒中医学教室〔〒701-0192 岡山県倉敷市松島577

症例は19歳男性である.骨肉腫の術前化学療法中に突然の意識混濁をみとめた.メソトレキセート(MTX)大量療法を施行しており,当日の頭部MRI拡散強調像にて両側半卵円中心に対称性の高信号域をみとめMTX脳症と診断した.その後,構音障害,四肢脱力や異常反射出現などの脳梗塞様症状が出現したがいずれも症状は一過性であった.拡散強調画像でみられた高信号域は当初,apparent diffusion coefficient(ADC)低値を示したが,症状改善にともない第14病日より上昇した.また,同部のfractional anisotropy(FA)値も正常化する傾向にあった.MTX脳症において拡散強調画像は早期診断に有用であり, ADC値やFA値は一過性かつ可逆性の臨床像と相関し経過を把握する上で有用であると考えられた.

(臨床神経, 47:79−84, 2007)
key words:メソトレキセート脳症, 拡散テンソル画像, ADC(apparent diffusion coefficient), FA(fractional anisotropy)

(受付日:2006年4月12日)