臨床神経学

症例報告

高活性抗レトロウイルス療法により免疫再構築症候群をきたしたAIDSにともなう進行性多巣性白質脳症の1剖検例

今村 栄次1), 山下 拓史1)*, 福原 敏行2), 澤 洋文4), 長嶋 和郎5), 桑原 正雄3), 時信 弘1)

1)県立広島病院神経内科〔〒734-8530 広島市南区宇品神田1-5-54〕
2)同 臨床研究検査科
3)同 呼吸器内科
4)北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター〔〒060-0818 札幌市北区北18西9〕
5)札幌東徳洲会病院病理〔〒065-0033 札幌市東区北33条東14丁目3番1号〕
現 広島大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科〔〒734-8551 広島市南区霞1-2-3〕

症例は44歳男性である.左手の動かしにくさで発症し,左上下肢の動かしにくさ,記銘力障害が徐々に進行した.頭部MRIT2強調画像で大脳白質に多発性の高信号病変をみとめた.血液検査からAIDSと診断し,進行性多巣性白質脳症(PML)の合併をうたがった.高活性抗レトロウイルス療法により血漿HIV-RNA量は著明に減少したが,症状は改善せず,白質病変は拡大した.開始35日後に突然,脳浮腫と意識障害が出現し死亡した.髄液と剖検脳にJCウイルスが検出され,大脳白質に脱髄所見をみとめ,AIDSにともなうPMLと診断された.また,脱髄巣内外の血管周囲に多数のCD8陽性Tリンパ球の輪状浸潤をみとめ,かつ浸出性変化も加わっており免疫再構築症候群の発症が示唆された.

(臨床神経, 47:650−656, 2007)
key words:後天性免疫不全症候群, 進行性多巣性白質脳症, 高活性抗レトロウイルス療法, 免疫再構築症候群

(受付日:2007年3月12日)