臨床神経学

日本神経学会賞受賞

ヒトの随意運動における補足運動野の機能と臨床的意義

池田 昭夫

京都大学・医学研究科・脳病態生理学講座臨床神経学〔〒606-8397 京都市左京区聖護院川原町54〕

ヒトの随意運動における補足運動野(SMA)の機能は,補足的な役割(運動に先行した体幹・四肢近位部の姿勢制御)と,随意運動の高位の発現中枢,と2仮説が1980年代にあった.臨床的にSMAは難治てんかん発作の焦点となり特有の発作時運動症状を呈し,また同部位の機能変容はパーキンソン病,ジストニアの症状を発現するがその関連は明らかでなかった.難治部分てんかんの外科手術のために硬膜下電極を大脳皮質表面に1〜2週間留置し,焦点決定と周辺皮質機能の検索の際に,随意運動に先行する準備電位(BP)を直接前頭葉内側面から検討した.その結果,1)ヒトの固有補足運動野(SMA proper)にはsomatotopy(体性機能局在)があり,それに応じてBPを発生する,2)左右各々のSMA properは両側の運動にほぼ同等に関与し,電位の大きさは対側一次運動野(MI)のそれと差がなく,SMA properはヒトの随意運動の準備にMIと同等に関与することを実証した.さらにSMA properと前補足運動野(pre-SMA)の機能的相違をヒトで明らかにし,とくに,感覚運動連関における刺激識別と運動選択におけるpre-SMAの役割,運動速度の影響,運動抑制における役割,陰性運動野との関連などを明らかにした.臨床的にはSMA発作の病態,パーキンソン病,ジストニアにおけるSMAの機能的関与を明らかにした.今後はSMAの電位活動をbrain-computer interfaceに応用して,対麻痺・脊髄損傷・運動ニューロン疾患などにおける評価と機能回復への応用が期待される.

(臨床神経, 47:8−20, 2007)
key words:補足運動野, 運動準備電位, 随意運動, てんかん, 運動異常症

(受付日:2006年5月11日)