臨床神経学

症例報告

腸壁嚢胞状気腫症をきたした多系統萎縮症の60歳男性例

清水 文崇, 川井 元晴, 小笠原 淳一, 根来 清, 神田 隆

山口大学大学院脳・神経病態制御医学 神経内科〔755-8505 山口県宇部市南小串1-1-1〕

小脳失調を主徴とした多系統萎縮症(multiple system atrophy of the cerebellar type;MSA-C)の経過中,腸壁嚢胞状気腫症(pneumatosis intestinalis;PI)をきたした60歳男性例を報告する.55歳時小脳失調が出現し,しだいに錐体外路症状,自律神経症状も出現し進行した.60歳時より寝たきりとなり,嚥下障害も出現した.腹部CTにて腹腔内遊離ガス像,上行結腸,横行結腸の漿膜下にガス像を多数みとめ,PIと診断した.保存的加療にてPIが消失した.本例のPIの原因としては,MSAにともなう自律神経症状および長期臥床にともなう偽性腸閉塞による腸管内圧の上昇の関与が考えられた.MSAにおいて通常みられる範囲を逸脱した高度な便秘や下痢をみとめる場合は,PIの合併を念頭においた十分な検討が必要である.

(臨床神経, 47:47−49, 2007)
key words:腸壁嚢胞状気腫症, 多系統萎縮症, 慢性特発性偽性腸閉塞

(受付日:2006年9月14日)