臨床神経学

症例報告

首下がりで発症した抗MuSK抗体陽性重症筋無力症の1例

岡野 智子1), 藤竹 純子1), 鈴木 香織1)2), 森 信人1), 園部 正信1), 太田 潔江3), 中根 俊成4), 齊田 恭子1)

1)京都市立病院神経内科〔〒604-8845 京都市中京区壬生東高田町1-2〕
2)鳥取県立中央病院神経内科〔〒680-0901 鳥取市江津730〕
3)独立行政法人国立病院機構宇多野病院臨床研究部〔〒616-8255 京都市左京区鳴滝音戸山町8〕
4)徳島大学神経内科〔〒770-8503 徳島市蔵本町2-50-3〕

首下がりで発症し,抗筋特異的チロシンキナーゼ(muscle-specific tyrosine kinase,MuSK)抗体陽性重症筋無力症(MG)の53歳,女性例を報告した.夕方になると首が下がり,頸部伸展筋のみ筋力が4−と低下をみとめた.エドロフォニウム試験,反復刺激検査,抗AChR抗体は陰性で,胸腺腫もみとめなかった.抗MuSK抗体が37.3 nMと陽性を示し,抗MuSK抗体陽性MGと診断した.症状は抗コリンエステラーゼ剤に反応したが,筋攣縮のため中止,プレドニゾロン治療で著明に改善した.本例は首下がりで発症し,典型的なMGの臨床および検査所見がえられなかったが,抗MuSK抗体の測定によりMGの診断が確定した.首下がりがあり,診断困難な時は抗MuSK抗体の測定が重要である.

(臨床神経, 46:496−500, 2006)
key words:重症筋無力症, muscle-specific tyrosine kinase, 抗MuSK抗体, 首下がり, seronegative MG

(受付日:2005年12月17日)