臨床神経学

症例報告

左半球の広汎な病巣による超皮質性感覚失語の1例

蕨 陽子1), 板東 充秋1), 栗崎 博司2), 西尾 真一3), 林 秀明1)

1)東京都立神経病院脳神経内科〔〒183-0042 東京都府中市武蔵台2-6-1〕
2)独立行政法人国立病院機構東京病院神経内科
3)同 リハビリ科

左中大脳動脈領域の広汎な損傷後に超皮質性感覚失語(TCSA)を呈した症例をとおして,TCSAの病巣,TCSAにおける復唱機能やプロソディの神経局在,失語の解離性について考察した.症例は68歳男性.左中大脳動脈領域の,左Broca領,中心領,側頭葉をふくむ広汎な皮質,皮質下の脳塞栓病巣を呈したが,WAB失語症検査からTCSAと診断した.本例は復唱の全過程と,流暢性,言語的・感情的プロソディの保持,音の理解を右半球が遂行していると推測された.すなわち,優位半球の言語機能が部分的に劣位半球に転位している,解離性失語に属する可能性が考えられた.言語機能が部分的に転位しうることは,言語機能の内部構造を探る上で重要と思われた.

(臨床神経, 46:317−321, 2006)
key words:超皮質性感覚失語, 左中大脳動脈, 復唱, 解離性失語, プロソディ

(受付日:2005年8月17日)