臨床神経学

症例報告

頸動脈海綿静脈洞瘻を有し静脈性脳梗塞を生じた1例

大島 幸子1), 重藤 寛史1), 川尻 真和1), 谷脇 考恭1), 吉浦 敬2), 吉良 潤一1)

1)九州大学大学院医学研究院脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3-1-1〕
2)九州大学大学院医学研究院臨床放射線科学分野

症例は88歳女性である.とくに誘因なく複視と左眼球結膜充血,左眼球突出を呈し,左眼窩部雑音および左外転神経麻痺をみとめた.頭部CTにて左眼球突出,左上眼静脈の著明な拡張に加え,左前頭葉・側頭葉の皮質静脈の拡張をみとめ頸動脈海綿静脈洞瘻(Carotid-cavernous fistula;CCF)と診断した.同時にみとめた左篩骨洞内の腫瘍に対して1カ月半後に局所麻酔下腫瘍生検術が施行された.翌日より意識障害,右上下肢麻痺が出現した.頭部MRIにて左前頭葉,左側頭葉,左大脳基底核,左視床,中脳,橋に静脈性脳梗塞の所見をみとめた.篩骨洞内腫瘍生検術にともなう感染あるいは脱水がCCFに重なったことにより,静脈性脳梗塞が引きおこされたと考えた.CCFには3%で脳出血を合併し,また非常にまれであるが動脈性脳梗塞や静脈性脳梗塞の合併も報告されている.これまでの報告でもCCFの経過中に脳梗塞,脳出血をきたした症例では皮質の静脈の拡張をみとめており,注意が必要である.

(臨床神経, 46:261−265, 2006)
key words:頸動脈海綿静脈洞瘻, 脳梗塞, 静脈性脳梗塞, 脳幹梗塞, 皮質静脈

(受付日:2005年4月12日)