臨床神経学

短報

妊娠7週で二次性プロテインS欠乏症から脳静脈洞血栓症を発症し,ヘパリン皮下注射で分娩に成功した1例

野崎 洋明1), 成瀬 聡1), 小池 正2), 奥泉 譲3), 藤田 信也1), 永井 博子1)

1)長岡赤十字病院神経内科〔〒940-2085 長岡市寺島町297-1〕
2)同 血液内科
3)同 放射線科

症例は妊娠7週の25歳女性である.発熱,頭痛,嘔吐にひき続いて,昏迷状態となり,救急搬送された.頭部CT,頭部MRIで両側視床,大脳基底核,脳梁膨大部の腫脹と,両側内大脳静脈,直静脈洞の血栓をみとめた.ヘパリン持続静脈注射と抗浮腫療法をおこない,第6病日には口頭命令に応じるようになり,良好な経過をたどった.二次予防は,催奇性のあるワーファリンでなく,ヘパリン皮下注射を選択し,妊娠の継続と分娩に成功した.血中遊離プロテインS抗原値が32%(正常値:60〜127%)と低値であったが,分娩後に正常化したため,妊娠にともなう二次性のプロテインS欠乏症と診断した.本例は,脳静脈洞血栓症の患者として,本邦ではじめて妊娠の継続と分娩に成功した貴重な症例である.

(臨床神経, 46:233−235, 2006)
key words:脳静脈洞血栓症, 妊娠, プロテインS欠乏症, ヘパリン皮下注射

(受付日:2005年8月5日)