臨床神経学

短報

一過性の失声とプロソディ障害を呈したてんかんの1例

中瀬 泰然1), 前田 哲也1), 鈴木 明文2), 長田 乾1)

1)秋田県立脳血管研究センター 神経内科〔〒010-0874 秋田市千秋久保田町6-10〕
2)同 脳卒中診療部

症例は53歳,右ききの女性である.全身性間代性けいれんのため救急入院した.頭部MRIでは異常をみとめず,脳波検査では正中部右側に焦点を持つ棘徐波複合を散発性にみとめた.SPECT検査では右大脳半球の血流上昇をみとめた.てんかんと診断しフェニトインを投与.発作直後は発声できず左片麻痺もみとめられたが,徐々に声を出せるようになった.左片麻痺は上肢が先に回復し下肢の回復が遅れた.また,この回復過程で,失声およびプロソディ障害が観察された.本症例ではプロソディの回復は言語性よりも感情表現性で遅れたことから,感情表現性プロソディの責任病巣は劣位半球前頭葉内側面にあることを示唆する興味深い症例と考え報告した.

(臨床神経, 46:718−721, 2006)
key words:失声, プロソディ, てんかん, 脳波, 前頭葉

(受付日:2006年6月16日)