臨床神経学

症例報告

硬膜静脈洞をふくむ脳静脈系の腫瘍血栓症が著明であった血管内リンパ腫症の1剖検例

野首 光弘1), 山元 龍哉2), 安藤 喜仁3), 中野 今治3)

1)自治医科大学附属病院病理診断部〔〒329-0498 下野市薬師寺3311-1〕
2)自治医科大学附属病院中央放射線部
3)自治医科大学附属病院神経内科

症例は発症から5カ月で死亡した55歳男性である.眼症状や頭痛を訴え画像では脳に梗塞様変化や小出血を示す病巣が出現消退をくりかえし多発した.また,髄膜造影効果がみとめられた.脳血管撮影で静脈洞血栓症と診断され,抗凝固療法がおこなわれたが海綿静脈洞部の陰影欠損に改善はみられなかった.CTやMRIでは同部の病変は腫瘤様に増大し,剖検によって大細胞性B細胞リンパ腫と判明した.脳静脈系内膜は腫瘍細胞を混ずる血栓で侵され,閉塞や同心円状狭窄を示し再疎通像がみられた.出血性梗塞が多発していたが脳実質内では腫瘍性腫瘤の形成が無く,髄膜播種もみられず,血管内リンパ腫症であった.予後不良で診断困難な病態である血管内リンパ腫症は脳静脈洞血栓症の鑑別診断として考慮する必要がある.

(臨床神経, 46:707−711, 2006)
key words:中枢神経系, 血管内リンパ腫症, 腫瘍血栓症, 静脈血栓症

(受付日:2006年5月30日)