臨床神経学

症例報告

動脈解離にともなう延髄内側梗塞との鑑別を要した頸髄硬膜外血腫の1例

矢坂 正弘, 有廣 昇司, 長谷川 泰弘, 峰松 一夫

国立循環器病センター 内科脳血管部門〔〒565-8565 大阪府吹田市藤白台5-7-1〕

症例は高血圧歴を有する67歳の女性である.突発する後頸部痛と右上下肢の脱力を主訴に救急受診した.初診時,右上下肢の麻痺と両側Babinski反射をみとめた.顔面神経をふくむ脳神経の障害はみとめなかった.胸部写真にて縦郭陰影の拡大をみとめ,大動脈から椎骨動脈におよぶ動脈解離に基づく延髄右内側梗塞をうたがった.しかし,胸部CT検査,頭部MRI-DWIとMRA検査で異常はなかった.症状は発症3時間後に急速に改善した.頸髄MRIにてC3-6レベルで右外後方から頸髄を圧迫する硬膜外血腫をみとめ,今回の症状の原因と判断した.頸部痛に加えて顔面をふくまない一側上下肢の麻痺で発症したばあい,動脈解離にともなう延髄内側梗塞とともに頸髄硬膜外血腫の緊急評価が必要と考えられた.

(臨床神経, 45:652−656, 2005)
key words:頸髄硬膜外血腫, 延髄内側梗塞, 動脈解離

(受付日:2004年10月28日)