臨床神経学

短報

僧帽弁輪石灰化に基づく弁付着可動性構造物由来の脳梗塞の1例

河野 浩之1), 寺崎 修司2), 橋本 洋一郎1), 小江 雅弘3), 平野 照之4), 内野 誠4)

1)熊本市立熊本市民病院神経内科〔〒862-8505 熊本県熊本市湖東1丁目1番60号〕
2)同 脳卒中診療科
3)同 心臓血管外科
4)熊本大学大学院医学薬学研究部神経内科学分野〔〒862-8556 熊本県熊本市本荘1丁目1番1号〕

症例は50歳の男性であり,慢性腎不全のために33歳時より透析中であった.伝導失語と右片麻痺を生じ来院した.MRI拡散強調画像で左中大脳動脈領域に高信号領域,経胸壁・経食道心エコーで僧帽弁後尖に疣贅様の可動性構造物を検出し,これによる心原性脳塞栓症と診断した.感染徴候に乏しく,抗生物質投与はおこなわず,ヘパリン持続点滴をおこなった.経時的な経食道心エコーでこの構造物の退縮をみとめたが完全には消失せず,2次予防目的で開胸術をおこなった.その結果,僧帽弁に内膜損傷をともなう僧帽弁輪部の石灰化をみとめたが,腫瘍,血栓や可動性構造物はなかった.この構造物は抗凝固療法で退縮した経過から血栓をふくむ構造物であったと推察された.

(臨床神経, 45:383−385, 2005)
key words:脳梗塞, 僧帽弁輪石灰化, 経食道心エコー, 抗凝固療法, 透析

(受付日:2004年8月9日)