臨床神経学

症例報告

一過性脳虚血発作に対し腋窩動脈・腋窩動脈バイパス術が奏効した左鎖骨下動脈近位部狭窄の1例〜神経超音波学的評価の有用性について〜

松田 希1), 松浦 豊1), 添田 智子1), 柴野 健1), 遠藤 一博1), 佐藤 善之2), 高橋 皇基2), 横山 斉2), 山本 悌司1)

1)福島県立医科大学医学部神経内科学講座〔〒960-1295 福島県福島市光ヶ丘1番地〕
2)福島県立医科大学医学部心臓血管外科学講座

左鎖骨下動脈近位部狭窄により,TIA(transient ischemic attack)と左上肢の阻血症状をきたした82歳男性の一例を報告する.血管造影で左鎖骨下動脈近位部の高度狭窄が証明され,椎骨脳底動脈系のTIAと考えられた.右椎骨動脈は造影されず無形成もしくは閉塞と考えられた.神経超音波検査により左鎖骨下動脈および左椎骨動脈の血行動態の情報がえられ,鎖骨下動脈盗血現象は生じていないことが判明した.血管造影などの画像検査と神経超音波検査から,左椎骨動脈が脳幹部を一側で支配し,その血流が順行性であると術前に結論された.以上より,左鎖骨下動脈近位狭窄部のPTA(percutaneous transluminal angioplasty)は脳幹部に重篤な塞栓症をきたす危険性があると判断し,より安全策と考えられる腋窩動脈―腋窩動脈バイパス術を実施した.今回,術前・術後の神経超音波学的検討を中心として報告する.

(臨床神経, 45:372−375, 2005)
key words:鎖骨下動脈近位部狭窄, 一過性脳虚血発作, 腋窩動脈―腋窩動脈バイパス術, 神経超音波検査

(受付日:2004年8月6日)