臨床神経学

症例報告

出血性変化をともなう両側視床病変より進展した単純ヘルペス脳炎の1例

坂口 二朗1), 米村 公伸1), 橋本 洋一郎2), 平野 照之3), 内野 誠3)

1)熊本市民病院脳卒中診療科〔〒862-8505 熊本市湖東1丁目1-60〕
2)熊本市民病院神経内科
3)熊本大学大学院医学薬学研究部神経内科分野〔〒862-8556 熊本市本荘1丁目1番1号〕

症例は71歳女性である.数日前から発熱と頭痛が持続し,近医にて頭部X線CTで右視床出血を指摘され,紹介入院した.入院時,傾眠傾向,頸部と四肢の筋強剛,両側Babinski徴候をみとめ,入院当日の頭部MRIでは両側視床にT2高信号域が描出された.入院時の髄液所見では軽度の蛋白上昇のみであったが,入院4日目には細胞増多をみとめ,5日目の頭部MRIでは,病変は両側側頭葉内側面および島皮質へ進展していた.初回の髄液PCRにより単純ヘルペス脳炎と診断した.直ちに抗ヘルペスウイルス薬の化学療法を施行し,その後会話が可能なまでに症状は改善,入院52日目に転院した.単純ヘルペス脳炎において,出血性変化をともなう両側視床病変から側頭葉へと進展する非定型的画像所見を呈する症例があることを念頭に置く必要がある.

(臨床神経, 45:368−371, 2005)
key words:単純ヘルペス脳炎, 視床, MRI

(受付日:2004年7月29日)