臨床神経学

症例報告

両側のUseless hand syndromeを主症状とした多発性硬化症の1例

濱田 英里1)2), 岡本 憲省1), 奥田 文悟1)

1)愛媛県立中央病院 神経内科〔〒790-0024 松山市春日町83〕
2)愛媛大学医学部 老年医学〔〒791-0295 愛媛県東温市志津川〕

多発性硬化症により特異的な運動拙劣症を呈した41歳の男性例を報告する.両手指の深部感覚と立体認知が障害され,偽性アテトーゼをみとめた.両手指の巧緻運動障害が顕著で,手指分離運動は高度に拙劣化していた.MRIでC3〜4に脱髄巣をみとめ,ステロイド療法により拙劣症は改善した.多発性硬化症におけるuseless hand syndrome(Oppenheim)の臨床像に合致していたが,両側性であることと,随伴症状が軽微なことが特徴的であった.巧緻運動障害の性状は,感覚性失調に加えて能動的運動覚の障害に由来するものと考察した.肢節運動失行に類似した拙劣症が,多発性硬化症による高位頸髄の病変により生じうることは注意を要する.

(臨床神経, 45:211−215, 2005)
key words:多発性硬化症, useless hand syndrome, 立体覚消失, 肢節運動失行, 高位頸髄後索

(受付日:2003年12月24日)