臨床神経学

症例報告

筋萎縮性側索硬化症と鑑別を要した一次進行型多発性硬化症の1例

高瀬 敬一郎1)*, 三田 洋1), 大田 純夫1), 由村 健夫1)

1)社会保険下関厚生病院脳神経センター脳神経内科
現 九州大学大学院医学研究院附属脳神経病研究施設神経内科〔〒812-8582 福岡市東区馬出3丁目1番1号〕

症例は44歳男性である.5年の経過で両足の脱力が進行し,歩行不可能となった.診察上線維束性攣縮はみとめないが,筋萎縮と脱力を両上肢では軽度に,両下肢では高度にみとめた.下肢腱反射は亢進し病的反射が陽性である.感覚障害は下肢に軽度の振動覚低下のみである.筋電図で上下肢に脱神経,神経再支配所見あり.臨床的に筋萎縮性側索硬化症に類似の所見を呈した.しかしMRIで大脳,脊髄に多発性のプラーク病変をみとめ,MEP,SEPのcentral conduction timeや,VEPのP100潜時はすべて延長していた.髄液中IgG indexも軽度増加していた.以上より一次進行型多発性硬化症と診断し,ステロイドパルス療法をおこない下肢筋力の改善をみた.多発性硬化症による錐体路障害と髄内神経根あるいは前角細胞の障害が,筋萎縮性側索硬化症類似の病態をつくり出した原因と考えられた.

(臨床神経, 45:96−99, 2005)
key words:多発性硬化症, 筋萎縮性側索硬化症, 錐体路, 前角細胞, 髄内神経根

(受付日:2004年3月19日)