臨床神経学

症例報告

慢性GVHD経過中にみとめられた左右非対称性の脱髄性末梢神経障害の1例

松本 英之1), 関 尚子1), 山本 知孝1), 大島 久美2), 浅井 隆司2), 本倉 徹2), 宇川 義一1), 後藤 順1), 辻 省次1)

1)東京大学医学部附属病院 神経内科〔〒113-8655 東京都文京区本郷7丁目3番1号〕
2)同 血液腫瘍科

症例は47歳男性である.45歳,急性リンパ球性白血病と診断され,46歳時,造血幹細胞移植を施行されたが,その後慢性移植片対宿主病(graft-versus-host disease/GVHD)症状をくりかえしていた.今回慢性GVHDの再燃期に複視・左上肢脱力を急性発症し入院した.右外転神経麻痺と上肢優位の非対称性四肢筋力低下をみとめた.神経根磁気刺激をふくむ神経生理学的検査で,運動神経を特異的に障害する脱髄性末梢神経障害の存在を確認した.この脱髄性末梢神経障害の原因として,慢性GVHDの関与が示唆された.慢性GVHD経過中に発症した末梢神経障害の報告は少なく,その病態は依然不明な点が多く,その分類も確立されていない.しかし,その大半は慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy/CIDP)類似の病態あるいはギランバレー症候群(Guillain-Barré syndrome/GBS)の合併という左右対称性の脱髄性多発ニューロパチーとして報告されている.これに対して,本例は顕著な左右非対称性を示す脱髄性末梢神経障害という特徴をもっていた.慢性GVHD経過中にみられる末梢神経障害例では,左右非対称性が顕著な脱髄性末梢神経障害をふくめて考慮する必要があり,その病態解明には同様の症例の蓄積が重要であると考えた.

(臨床神経, 45:748−753, 2005)
key words:慢性移植片対宿主病, 造血幹細胞移植, 磁気刺激, 脱髄性末梢神経障害, 非対称性

(受付日:2005年3月16日)