臨床神経学

症例報告

両下肢の多発性単神経根症で発症した原発不明癌による髄膜癌腫症の1剖検例

石川 剛久1), 嶋崎 晴雄1), 森田 光哉1), 澤田 幹雄1), 瀧山 嘉久1), 中野 今治1), 川井 俊郎2)

1)自治医科大学神経内科〔〒329-0498 栃木県河内郡南河内町薬師寺3311-1〕
2)自治医科大学病理部

左臀部異常感覚にて発症し,異常感覚と両下肢筋力低下が髄節分布に沿って進行した54歳男性例を報告した.右末梢性顔面神経麻痺,各髄節分布に一致する両下肢筋力低下と感覚障害,四肢腱反射減弱をみとめ,多発性単神経根症と診断した.計8回施行した髄液細胞診はすべて陰性で,MRIでは脳〜腰髄周囲髄膜の造影を,馬尾生検では軸索脱落をみとめた.全経過15カ月で死亡し,剖検上,脳脊髄周囲に癌細胞が浸潤していたことから髄膜癌腫症と診断したが原発巣は不明であった.本症例のように無治療ながら長期経過をとる髄膜癌腫症例があり,原因不明の多発性単神経根症の鑑別疾患として,まれながら髄膜癌腫症を考慮する必要があると考えられた.

(臨床神経, 45:32−37, 2005)
key words:多発性単神経根症, 髄膜癌腫症, 原発不明癌, 扁平上皮癌

(受付日:2004年3月4日)