臨床神経学

原著

Parkinson病にみられる幻覚,妄想の性状と背景因子

柏原 健一, 大野 学, 勝 康子

岡山旭東病院 神経内科〔〒703-8265 岡山市倉田567-1〕

Parkinson病(PD)入院患者64症例(男21例,女43例)を対象に,入院時の幻覚,妄想の頻度,性状とその背景因子を検討した.入院の契機はPD関連症状が50例,その内訳は精神症状が27例(幻覚,妄想が22例)ともっとも多く,次いで運動症状が20例,感覚症状が3例であった.他には肺炎4例,脳梗塞3例,骨折3例,腰痛2例,痙攣1例,咬傷1例であった.精神症状は計49例にみとめられ,幻覚,妄想が43例,せん妄11例,痴呆10例,うつ状態8例,躁状態1例,不安10例,易興奮6例,常同行動2例,性欲亢進が2例であった.幻覚,妄想を呈した43例の内容であるが,幻視が40例,幻聴18,幻触1,被害・関係妄想が23例にみとめられた.これら症例を幻覚,妄想のため家庭生活に支障を生じて入院した「重症群」,他の原因で入院したが,幻覚,妄想を合併していた「軽症群」,幻覚,妄想をともなわない「対照群」の3群に分け,他の臨床症状,検査値を比較した.その結果,幻聴,妄想は重症群で出現頻度が高かった.また,重症群では運動症状(オフ時Hoehn-Yahr評価尺度)も重症であり,知的機能障害(Mini-Mental State Examination),脳波の徐波化,心筋シンチにおけるH/M比(early像)の低下も顕著であった.初発年齢,調査時年齢,罹病期間,抗PD薬投与量(L-dopa/DCI,アゴニスト),抑うつ気分評価尺度,頭部MRIにみられる萎縮,虚血性変化は3群間で差異をみとめなかった.精神病状態発現にはPD症状の進行,とくに知的機能障害を生じるような脳の機能低下が重要である可能性が示された.

(臨床神経, 45:1−5, 2005)
key words:Parkinson病, 幻覚, 妄想, 精神症状, 危険因子

(受付日:2003年11月30日)