臨床神経学

症例報告

可逆性白質病変と髄液抗甲状腺抗体とをみとめた橋本脳症の1例

若井 正一1)2), 西影 裕文2)*, 五島 一征2)

1)掛川市立総合病院神経内科〔〒436-8502 静岡県掛川市杉谷721番地〕
2)同 内科
現,兵庫医科大学医学部総合内科学腎・透析科

症例は71歳女性である.橋本病の経過中に,ミオクローヌス,体幹失調,痴呆を呈した.臨床症候は変動し,時に急速に変化した.症候の変動に応じて脳波も変化した.血清の抗甲状腺抗体(ATA)価の著明な高値と髄液中の蛋白・IgGの上昇とをみとめた.橋本脳症(HE)と診断し,副腎皮質ステロイドホルモンを投与したところ,すみやかに軽快・治癒にいたった.頭部MRIにて瀰漫性の白質病変がみとめられ,症候の改善にともないほぼ消失した.また,髄液中にATAをみとめた.血清・髄液ともにATA抗体価は症候の改善にともない漸次低下した.髄液ATAの存在は血液脳関門の破綻による血液からの漏出と推定した.

(臨床神経, 44:432−437, 2004)
key words:橋本脳症, 橋本病, 抗甲状腺抗体, MRI, 白質脳症

(受付日:2003年10月24日)