臨床神経学

症例報告

胃切除術後に発症し,血中Vascular endothelial growth factor(VEGF)が高値を呈したビタミンB1欠乏性ニューロパチーの1症例

中川 広人1), 米田 誠1), 前田 亜佐子1), 梅原 藤雄2), 栗山 勝1)

1)福井大学医学部第二内科〔〒910-1193 福井県吉田郡松岡町下合月23号3番地〕
2)鹿児島大学医学部第三内科

症例は,66歳男性で19歳時に胃切除の既往がある.感冒様症状後,著明な全身性浮腫にひき続き四肢のしびれ感が急性に出現した.脱力ならびに深部知覚障害により歩行困難となり入院した.心拡大と胸水貯留をみとめ,神経伝導検査ならびに腓腹神経生検では軸索変性所見を呈していた.血中ビタミンB1値は19 ng/ml(正常:20〜50 ng/ml)と軽度の低下であったが,ビタミンB1静注(50 mg/day)にて症状は劇的に改善した.本症例は,アルコール多飲,偏食などはなく,また,血中ビタミンB1の低下をひきおこす基礎疾患もみとめず,唯一胃切除が発症に関与したと推測された.胃切除手術後,ビタミンB1欠乏状態がおこりうること,および血中値は必ずしも極端な低値でなくても欠乏症が発症しうることを認識すべきであり注意を要する.また,本症例においては,vascular endotherial growth factor(VEGF)が異常高値を呈しており,ビタミンB1欠乏症の病態あるいは末梢神経障害の発症にVEGFが関与している可能性が示唆された.

(臨床神経, 44:91−95, 2004)
key words:ビタミンB1欠乏症, 胃切除術後, 多発神経障害, 全身性浮腫, 血管内皮増殖因子

(受付日:2003年7月3日)