臨床神経学

短報

右橋梗塞後に両側中小脳脚のワーラー変性をみとめた1例

藤井 明弘1), 得田 彰1), 米田 誠1), 栗山 勝1)

1)福井医科大学第二内科〔〒910-1193 福井県吉田郡松岡町下合月23-3〕

症例は63歳の男性である.中枢性の左顔面神経麻痺,左上下肢麻痺,左上下肢運動失調,両側性体幹失調を呈し,右橋梗塞によるataxic hemiparesisと診断された.橋小脳路の障害により,小脳症状が出現した.梗塞発症29日後の頭部MRIにて,両側中小脳脚にT2強調画像で高信号を呈する病変が出現した.この病変は,橋小脳路の障害によるワーラー変性と考えられた.片側の橋小脳路の障害により両側の中小脳脚にワーラー変性が生じた理由としては,橋核より小脳への神経線維はすべて中小脳脚を通り,対側の小脳半球部皮質へ投射するものと,両側虫部皮質へ投射するものが存在するためと考えられた.橋小脳路を巻き込む脳梗塞の経過中には,橋小脳路のワーラー変性が生じる可能性もあることを念頭に入れ,経過をみる必要がある.

(臨床神経, 44:105−107, 2004)
key words:ワーラー変性, 橋梗塞, 中小脳脚, 橋小脳路, 失調性片麻痺

(受付日:2003年3月19日)