臨床神経学

症例報告

ディスプロソディを主徴とし環境音失認をともなった右側頭葉血流低下の1例

山本 敏之, 菊池 猛, 永江 順子, 尾方 克久, 小川 雅文, 川井 充

国立精神・神経センター武蔵病院神経内科〔〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1〕
同 リハビリテーション部

プロソディの障害を主徴とした経過3年の60歳右きき男性に環境音失認をみとめた.発声発語器官の異常,喚語障害,言語理解の異常,書字,読字の障害はなく,発話で韻律の異常と軽度の助詞の欠落,音韻性錯語をみとめ,あたかも「外国人のようなしゃべり方」であった.また,聴覚は正常で,言語音の認知は保たれたが,無自覚に非言語音の認知障害が観察された.痴呆や高次脳機能障害をみとめなかった.MRIでは軽度の右側頭葉の萎縮をみとめ,脳血流SPECTは,正常対照と比較して右側頭葉の上側頭回から弓状束周辺に軽度の血流低下をみとめた.緩徐にディスプロソディが進行し,環境音失認をともなう変性疾患の初期像である可能性が考えられた.

(臨床神経, 44:28−33, 2004)
key words:ディスプロソディ, 環境音失認, 右側頭葉, SPECT, MRI

(受付日:2003年6月25日)