臨床神経学

症例報告

解離性健忘を呈した29歳男性例の事象関連電位とSPECTによる検討

栗田 正, 米澤 仁, 鈴木 正彦, 川口 祥子, 伊藤 保彦, 井上 聖啓

東京慈恵会医科大学神経内科〔〒105-8461 港区西新橋3-25-8〕

症例は2年間の逆向性健忘で入院した29歳男性である.健忘の障害はエピソード記憶に強く,とくに就職後のものが高度であった.原因となる基礎疾患はなく,患者の非適応的性格,健忘の性状,および職場のストレス性因子の関与がうたがわれる点から解離性健忘と診断した.相貌刺激による事象関連電位検査では,本人が記憶にないと訴える健忘期間中の上司の顔に対しP3a成分が出現した.同成分は母親の顔でも出現し,真に見知らぬ顔では出現しなかったことから,上司の顔の記憶は残存するものの,想起できない可能性が示唆された.SPECTでは左側頭葉内側,左前脳基底部の血流低下をみとめ,本症における脳の機能的変化をとらえている可能性が示唆された.

(臨床神経, 44:14−19, 2004)
key words:解離性健忘, 事象関連電位, SPECT, 心因性健忘

(受付日:2003年2月12日)