臨床神経学

症例報告

滑車神経麻痺と分節性感覚障害を呈した中脳・橋上部の限局性出血の1例

石原 健司, 古谷 力也, 塩田 純一, 河村 満

汐田総合病院神経内科〔〒230-0001 横浜市鶴見区矢向1-6-20〕
昭和大学神経内科

滑車神経麻痺と分節性感覚障害を呈した36歳,男性例を報告した.潜水後に複視,左顔面・上肢のしびれ,左耳鳴が出現した.神経学的に左滑車神経麻痺および左半身の分節性感覚障害(顔面をふくみ第11胸髄髄節レベルより上方の温痛覚低下・自覚的しびれ感)を,頭部MRIにて右下丘〜橋被蓋に限局性の出血をみとめた.脳血管撮影では異常をみとめず,保存的治療にて症状は徐々に軽快した.脳幹の血管障害により時に分節性感覚障害を呈することが知られているが,中脳病変の報告例はない.本例における症候の発現には,滑車神経髄内線維と脊髄視床路が近接して走行していることに加え,脊髄視床路の体性局在は中脳レベルでも保たれていることが関与していると考えた.

(臨床神経, 43:417−421, 2003)
key words:滑車神経麻痺, 分節性感覚障害, 中脳出血, 脊髄視床路

(受付日:2003年2月3日)