臨床神経学

症例報告

硬膜移植歴のあるクロイツフェルト・ヤコブ病患者に対するキナクリン投与の影響

小林 由佳1), 平田 幸一1), 田中 秀明1), 山田 達夫2)

1)獨協医科大学神経内科〔〒321-0293 栃木県下都賀郡壬生町北小林880〕
2)福岡大学第五内科〔〒814-0180 福岡県福岡市城南区七隈7-45-1〕

症例は37歳女性である.14歳時に硬膜移植歴がある.2001年8月歩行時のふらつき出現,その後痴呆,幻覚症状があり当科に入院した.入院後,除皮質硬直位,反射性ミオクローヌス出現し,追視もなくなり自発運動も低下した.キナクリンを300 mg/日投与し,1週後より自発運動,追視が再出現し症状の改善をみとめた.脳波上PSDが出現していたが,1週後には消失,基礎律動にもθ波が出現した.しかし,症状は3週後にはふたたび悪化,2カ月後には肝障害が出現,投与中止した.硬膜移植から23年の潜伏期間で発症したCJD患者にキナクリンを投与し,その作用機序には不明な点が残るものの一過性の中枢神経系への影響が示された症例と考えられた.

(臨床神経, 43:403−408, 2003)
key words:キナクリン, 硬膜移植, クロイツフェルト・ヤコブ病, プリオン, 脳波

(受付日:2002年12月17日)