臨床神経学

原著

緩徐進行性失語の書字障害

永井 知代子, 岩田 誠

東京女子医科大学脳神経センター神経内科〔〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1〕

発症初期に流暢型失語を呈した緩徐進行性失語患者3人の書字障害を経時的に検討した.いずれもWAB失語症検査で失語指数が50〜60台の頃にもっとも書字障害がめだち,その特徴は(1)種々のタイプの保続がみられ,書取より自発書字で顕著(2)文字と絵の混同がある(3)写字は良好(4)最終的には進行して書字不能になる,であった.また進行とともに文→単語→音素と保続の出現するレベルは変化した.以上のことから流暢型の緩徐進行性失語では,一般的な保続の原因となる抑制障害や語彙の脱落に加え,思考を文字表現する際に正しい文字を想起し書字計画にしたがって適切な順に並べるという,記号としての文字の操作レベルの障害が書字に影響を与えていることが示唆された.

(臨床神経, 43:84−92, 2003)
key words:緩徐進行性失語, 書字, 失書, 保続

(受付日:2002年6月29日)