臨床神経学

第44回日本神経学会総会

シンポジウム3-4:日本におけるプリオン病(神経系感染症最近の話題)
プリオン蛋白質関連因子としてのunfolding chaperone

八谷 如美, 逆瀬川 裕二, 金子 清俊

国立精神・神経センター神経研究所 疾病研究第七部〔〒187-8502 小平市小川東町4-1-1〕

クロイツフェルト・ヤコブ病に代表される神経疾患の原因分子として,1982年カリフォルニア大学のプルシナー博士らにより,「プリオン」が同定された.そもそも「プリオン」とは,感染性を有するagentという定義であったが,その後まったく同じアミノ酸配列が正常の個体にもコードされていることが判明し,正常型プリオン蛋白質(cellular isoform of prion protein:PrPC)と命名された.これに対し,先のプリオンはスクレイピー型プリオン蛋白質(Scrapie isoform of prion protein: PrPSc)として区別され,PrPScの生成機構としては,PrPScを鋳型としてPrPCの立体構造がPrPScと同様の構造に変換する事と考えられている.
PrPCとPrPScの立体構造の違いに関する熱力学的な予測から,PrPScへの変換に際しては,未だ未同定の因子(factor X)の関与によりPrPCが一旦unfoldされる状態を経ると考えている.このことは,正常にfoldingされた分子(PrPC)を標的とするunfolding factorの存在を暗示する.既知の一般的な分子シャペロンはmisfoldされた分子を標的とするのに対し,この分子は正常にfoldingを受けた分子を標的とする,いわば新しいクラスの分子シャペロン(unfolding chaperone)といえる.われわれは,酵母においてこのようなunfolding chaperoneを同定しUnfoldinと命名した.Unfoldinは,さらに哺乳動物細胞においても同様の活性の存在を確認した.

(臨床神経, 43:817−819, 2003)
key words:プリオン病, プリオン蛋白質, Unfoldin, 分子シャペロン

(受付日:2003年5月16日)