臨床神経学

原著

左頭頂葉皮質下限局病変による伝導性失語

伊林 克彦

新潟リハビリテーション専門学校言語聴覚学科〔〒958-0053 新潟県村上市上の山2-16〕

左頭頂葉の小梗塞で伝導性失語を呈した1例を報告した.症例は74歳男性で右ききである.1996年1月13日,右手のしびれと言語障害にて発症した.CTにて左頭頂葉縁上回に小さな低吸収域をみとめた.入院から5日目のStandard Language Test of Aphasiaでは,聴覚的理解力は保たれていたが自発話,呼称,音読,復唱と表出面全般にわたり著明な音韻性錯語と,それをいい直そうとする自己修正が頻繁にみとめられた.
 しかし,復唱のみが特別に障害されているという印象はなかった.発症より3カ月後,言語症状は改善したが,音韻性錯語とそれにともなう自己修正は大きな改善はみられなかった.さらに,発症より3年4カ月後には,失語症状はほとんど回復したが依然言葉が出にくいとの訴えは残った.
 以上から,純粋な伝導性失語であればあるほど,発話面全般にわたる音韻性錯語と目標語に向けた自己修正をくりかえすことが主症状であると思われた.その背景にはWernicke野とBroca野を結ぶ連合路に病巣を生じたばあい,発語に対する両者間の相互作用が崩れ,正確な音を選択することが困難になることが示唆された.

(臨床神経, 42:731−735, 2002)
key words:伝導性失語, 音韻性錯語, 復唱, 弓状束, 自己修正

(受付日:2001年2月24日)