臨床神経学

症例報告

バセドウ病の経過中に発症した橋本脳症の1例

斉藤 浩史1), 藤田 信也1), 宮腰 将史2), 新井 亜希3), 永井 博子1)

1)長岡赤十字病院神経内科〔〒940-2085 長岡市寺島町297-1〕
2)同 内科
3)新潟大学脳研究所神経内科

症例は23歳女性である.10歳時にバセドウ病と診断され,内服治療を受けていたが,18歳頃より自己中止していた.23歳時,発熱,頻脈,全身性のけいれん発作と意識障害が出現し,甲状腺機能の亢進をみとめた.抗甲状腺薬により甲状腺機能は正常化したが,約1カ月後にふたたびけいれん発作をきたし,幻聴や見当識障害,記銘力の低下をみとめた.抗TPO抗体が血中で5,850IU/ml,髄液中で4.9IU/mlと上昇し,バセドウ病に合併した橋本脳症と診断した.頭部MRIでは異常所見をみとめなかったが,脳血流シンチグラフィーで大脳全体の脳血流が低下していた.神経症状は,ステロイド療法によりすみやかに軽快した.バセドウ病の経過中に精神神経症状がみとめられた際,橋本脳症も鑑別すべき重要な疾患と考えられた.

(臨床神経, 42:619−622, 2002)
key words:橋本脳症, 抗TPO抗体, バセドウ病, SPECT

(受付日:2002年4月25日)