臨床神経学

短報

開口障害を呈し,橋まで病変が及ぶ延髄空洞症の1例

三谷 琴絵1), 豊岡 圭子1), 階堂 三砂子1), 湯浅 亮一1), 濱田 傑2), 舘村 卓3)

1)市立堺病院神経内科〔〒590-0064 大阪府堺市南安井町1-1-1〕
2)近畿大学医学部附属病院口腔科〔〒589-8511 大阪府大阪狭山市大野東377-2〕
3)大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座〔〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1番8号〕

症例は30歳男性である.16歳時に単車で転倒後,左頸部から左上肢にかけてのしびれ感が持続していた.30歳時,左声帯麻痺,軽度嚥下障害にて発症し,左顎関節痛および開口障害が漸次出現した.3カ月後には左顔面のしびれ感,左側の味覚低下,嚥下障害の増強,左耳鳴,左側の小脳性運動失調症状も加わった.頭部MRIでは,左延髄から橋へ続くスリット状の病変がみとめられ,T2強調像で高信号,T1強調像で低信号を示した.脊髄MRIでは全脊髄におよぶ空洞症をみとめ,脳幹部の病変に連続しているものと思われた.開口障害について,咀嚼時表面筋電図により検討した結果,患側咬筋の異常活動がみとめられ,原因として,脳幹部にある咀嚼顎運動の中枢性パタン発生器の障害が推察された.

(臨床神経, 42:540−543, 2002)
key words:開口障害, 延髄空洞症, 中枢性パタン発生器

(受付日:2001年12月17日)