臨床神経学

短報

症状改善後に頭部MRI-T1強調画像にて高信号域病変の拡大をみとめた単純ヘルペス脳炎の1例

石田 志門1), 森口 暁仁1), 坂根 貞樹1), 古川 恵三1), 中嶋 秀人2)

1)市立枚方市民病院内科〔〒573-1013 大阪府枚方市禁野本町2-14-1〕
2)大阪医科大学第一内科

単純ヘルペス脳炎(HSE)の58歳女性例を報告した.入院時の頭部CTは正常であったが,MRIではT1強調画像で両側側頭葉内側および海馬の腫脹と低信号域病変,T2強調画像で右優位の両側側頭葉内側,海馬,扁桃体,左島回,両側帯状回に高信号域病変をみとめた.acyclovir治療後に臨床症状はすみやかに改善したが,T1強調画像で右側頭葉内側と海馬,左島回,両側帯状回に高信号域病変が出現し,発症3カ月後には左側頭葉内側,右島回,直回にも高信号域病変が拡大した.MRI病変の拡大とともに髄液ミエリン塩基性蛋白が増加し,IgG indexの増加とオリゴクロナールIgGバンドが持続的に検出された.本例のT1強調画像所見の変化はCTでは確認できないHSEの出血性病変を経時的に捉えたものであり,髄液免疫学的所見の変化はこの出血性病変部におけるHSVに対する免疫応答が持続したことに起因すると考えられた.

(臨床神経, 42:536−539, 2002)
key words:単純ヘルペス脳炎, MRI, ミエリン塩基性蛋白, オリゴクロナールIgGバンド

(受付日:2001年9月14日)