臨床神経学

症例報告

緩徐に進行した半側の痙性片麻痺,運動拙劣,運動失調と構成障害をきたした1例

影山 恭史, 多々野 誠, 山本 真士, 市川 桂二

兵庫県立尼崎病院神経内科〔〒660-0828 兵庫県尼崎市東大物町1-1-1〕

症例は65歳女性である.61歳時,左手の巧緻運動障害が出現し進行した.その後,左足の跛行が加わった.神経学的に舌をふくめた左痙性片麻痺,左手の運動拙劣,左上下肢の運動失調,構成障害,記銘力障害をみとめ,明らかな痴呆,パーキンソン症状,下位運動ニューロン徴候はなかった.脳MRIで全般的な大脳萎縮と右大脳脚および橋底部の萎縮があり,脳血流SPECTで右前頭・頭頂葉皮質の血流低下をみとめ,これらの神経症状の責任病巣は右前頭・頭頂葉皮質と推測された.本例は一側の中心前回の障害としてMills' syndrome様の半側の痙性片麻痺をきたし,さらに近接した皮質の症状を同時に呈する神経変性疾患と考えられた.本例の臨床的位置付けにつき,考察を加え報告した.

(臨床神経, 42:202−206, 2002)
key words:緩徐進行性半側痙性片麻痺, 非対称性皮質障害, Mills' syndrome, 運動ニューロン病

(受付日:2001年4月2日)