臨床神経学

症例報告

橋本脳症―本邦における症例報告と診断における問題点

中村 治雅, 床並 房雄, 山崎 正博

浜松労災病院神経内科〔〒430-8525 静岡県浜松市将監町25〕

2回の増悪緩解をくりかえした橋本脳症の1例を,本邦での既報告例とともに報告した.症例は54歳女性.両上肢の振戦とともに,精神症状,意識障害,痙攣発作などの多彩な症状がみられた.ステロイドパルス療法で寛解し,維持療法により再発をみとめなくなった.これまで橋本脳症報告例は5例と少なく,本邦での報告が少ない理由として,本症で高値を示す抗甲状腺自己抗体の検査がされていないためと考えられる.本邦での抗甲状腺自己抗体陽性率から考えると,原因不明のステロイド反応性脳症や非ヘルペス性脳炎には少なからず橋本脳症がふくまれているものと考えられる.今後原因不明の脳症の鑑別にTSH,freeT4などの甲状腺機能のみでなく抗甲状腺自己抗体の測定もふくめたスクリーニングが必要になると思われた.

(臨床神経, 42:162−166, 2002)
key words:橋本脳症, 抗甲状腺自己抗体, 橋本病, ステロイド療法, 非ヘルペス性急性辺縁系脳炎

(受付日:2001年12月19日)