臨床神経学

原著

他の神経症候をともなわない慢性進行性眼瞼下垂を示す1家系:新しい病型の可能性について

市川 博雄1), 杉田 幸二郎1), 野中 晶子1), 渡辺 泰樹2), 埜中 征哉3)

1)昭和大学医学部神経内科〔〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8〕
2)富士吉田市立病院神経内科
3)国立精神・神経センター

富士山麓の某村にみとめた家族性眼瞼下垂症を報告した.眼瞼下垂の発症は40〜50歳代の壮年期であり,5世代に9名の発症者をみとめ,常染色体優性遺伝がうたがわれた.発症者のうち5名の検討では,慢性進行性で両側対称性の眼瞼下垂のみを呈し,他の症状を有するものはなかった.血液生化学検査,筋電図検査に異常はなく,上眼瞼挙筋,腓腹筋の筋病理所見では軽度の筋線維大小不同を示すのみであり,疾患特異的な変化をみとめなかった.ミトコンドリアDNAの欠失やpoly A binding protein 2(PABP2)遺伝子内のGCGくり返し配列の延長は検出されなかった.本家系例は確立した既知の疾患単位には属さない家族性眼瞼下垂症であると考えた.

(臨床神経, 42:1−6, 2002)
key words:家族性眼瞼下垂, 常染色体優性遺伝, 慢性進行性, 壮年期発症

(受付日:2001年8月14日)